つまらない話「スティック」

つまらない話があるので、ブログにします。

暇なら読んでみてください。


「スティック」


カラオケ店でアルバイトをしている。

最近は1人で店舗を回すこと、いわゆるワンオペが多い。

深夜2時に閉店し、レジ締め作業や清掃を1人で行って深夜3時。

ワンオペは業務を全て1人でやるため、ダルさもあるが、何か忘れそうで怖い。

例えば、フライヤーの電源を落とし忘れたら火事の危険もある。
まな板を漂白剤に漬け忘れたら早番の人に怒られるかもしれない。

とにかく、その日は忘れた作業は無いかよく確認してから、倉庫へ戻って着替えた。

店を出る時は、店の鍵に付いているスティックを使う。警備会社SECOMから渡されたものだ。

まず、倉庫内にあるSECOMのボタンを押す。すると「スティックを挿入してください」と音声がなる。

ボタンの下に差し込み口があるので、そこにスティックを差し込むと「お疲れ様でした。20秒以内に鍵を掛けて出てください。」と音声がなる。

機械が労ってくれるのは有難いが、20秒以内に鍵を掛けて出るのはいつも焦る。

その音声のあと、「ピーッ、ピーッ、ピーッ」という警告音が鳴り響き、次第に「ピピピピッ!ピピピピッ!」と早くなる。

倉庫から出て目の前にある裏口の扉を開けて、外から鍵を掛けるだけなので、確かに20秒あれば出来るのだが、警告音が鳴り響いてめちゃくちゃ焦る。

しかも夜中3時となると手元も全く見えないから、鍵穴に鍵がなかなか入らない。もうとにかくめちゃくちゃ焦る。

そしてなんとか鍵を掛けるのだが、よく分からないことに、鍵を掛けても警告音は鳴り続ける。

「俺の鍵の掛け方が悪かったのか?実は鍵が掛かっていないのか?20秒をオーバーしてしまったのか?吉田沙保里が来てしまうのか?いや、吉田沙保里はALSOKだった。SECOMって誰だ。キムタクか?」

こんなことを毎回考えてしまう。途中から嘘だが。

そしてその日は無事に(というかいつも無事に)店を出た。

しかし、自転車に跨っていざ帰ろうとした時にふと思い出した。

「あっ、退勤打刻忘れた!!」

あろうことか、退勤打刻を忘れたのである。

あれだけ、フライヤーの電源を落としたか、まな板が漂白剤にちゃんと浸かっているか、その他諸々確認したにも関わらず、打刻を忘れたのである。

一年以上働いていて、初めてのことだった。

とりあえず、退勤打刻をしないと永遠に時給が発生してしまう。

いや、それはそれで嬉しいかもしれないが、そんなことになったら恐らくカラオケ店の経営本部から訴えられてしまう。裁判沙汰はごめんだ。

そして万が一裁判に勝訴してしまったら、日本中のアルバイトがこの手法で永遠に時給を稼いでしまう。日本経済は破滅だ。

一度閉めた店に戻るのは初めてだった。

けたたましい警告音に怯え涙しながら20秒以内に苦労して閉めた鍵をなくなく開けた。

すると、先程のSECOMの機械から「開店作業をしてください!!」「開店作業をしてください!!」 とこれまたけたたましい音声が流れた。

「いや開店作業なんて知らねえよ!」

早番で入ったことは無い。

まずい。このままだと泥棒が入ったと勘違いされて、自動的にSECOMに通報が届き、吉田沙保里⋯じゃなくてキムタクが来てしまう。

こんな深夜に、しかも新潟のしょうもないカラオケ店に、ジャニーズのトップスターを呼んでしまったら大騒ぎになる。

ジャニオタからは総バッシング、Twitterは炎上し、個人情報も特定され、弾けもしないピアノを弾き語りさせられるかもしれない。

それどころか、このコロナ禍でキムタクを長距離移動させたとなれば、もはやそれだけで極刑になってもおかしくはない。

まずい、どうする。
早くSECOMの音声を止めないと極刑が科される。

「ちょ待てよ」

俺が1番言いたいセリフはまさにこれだった。

とにかく俺に出来ることは1つしかない。

SECOMのボタンの下にある挿入口にスティックを差し込んだ。

音声は止み、世界に平和が戻った。

花は咲き、小鳥たちはさえずり、太陽は輝き、恵みの雨は降り、子どもたちは手と手を繋いで we are the world を歌い、磯野貴理磯野貴理子になったかと思えばまた磯野貴理になり、第三次世界大戦が勃発し、地球外生命体が人類の2/3を乗っ取り、自分は無事に退勤打刻を済ませた。

そしてまた、地獄の20秒をくぐりぬけて、無事に家に帰ったのであった。


めでたしめでたし。


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